店舗移転に伴う休業期間中における従業員の休業手当についての事例

1 いただいたご相談内容

当社は複数店舗で小売業を営んでいるのですが、ある店舗について、道路拡張のため市から土地収用の話を持ち掛けられ、交渉が最終段階に入っております。

資金繰りの関係で土地の収容後に移転先における店舗の建設が始まることとなっており、新店舗開店まで数か月の期間がかかります。

交渉の最終段階に至って休業期間中の従業員の給与の支払いはしなければいけないのかどうかという問題があることに気が付きました。

市との交渉は最終段階のためこれ以上の値上げ交渉はできそうにありません。

従業員への休業手当を支払わなければ黒字になるものの、従業員への休業手当を支払うと赤字になる可能性があります。

休業となる店舗に勤務している従業員の中には、正社員もいればパート・アルバイトもおります。

このような場合でも従業員に対し休業手当は支払わなければならないのでしょうか。

パートやアルバイトであればシフトが入っていなければ給与は発生しないので休業手当は支払わなくても良いということにはならないでしょうか。

なお、休業となる店舗に勤務している従業員の雇用契約はすべて勤務地が当該店舗限定になっており、最寄りの他の店舗も車で20分くらいかかる上にシフトに空きはありません。

 

2 弁護士からの回答

労働基準法では以下の規制が定められております。

 

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

つまり、「使用者の責に帰すべき事由」により休業する場合、使用者は、最低でも平均賃金の60%を休業手当として従業員に支払わなければなりません。

この「使用者の責に帰すべき事由」とは不可抗力を除いて、使用者側に起因する経営、管理上の障害も含まれると解されております。

裏を返せば、不可抗力による休業であれば休業手当を支払わなくとも良いということになります。

ただ、不可抗力による休業といえるためには、

・外部起因性(その原因が事業の外部より発生した事故であること)

・防止不可能性(事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること)

を充足する必要があるといわれております。

ご相談の事例では、市による土地有用という意味で①外部起因性は認められる可能性はありますが、交渉過程において融資を受けるなどして数カ月間の空白が生じないよう対策できた可能性があり②回避不可能性を否定されてしまう可能性が高いと考えられます。

 

そして、以下の裁判例からすると、パート・アルバイトでシフト制であっても、例えばこれまで概ね週3ないし4日、1回につき数時間のシフトが組まれていたような従業員に対し、合理的理由なくこのシフトを大幅に削減するようなことは違法となる可能性が高いと考えられます。

 

東京地判令和2年11月25日S事件
「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得ると解される。」

 

そうすると、従業員は正社員であろうとパート・アルバイトであろうと、一定程度の休業手当は支払わなければならないと考えられます。

この場合の注意点としては、罰則のある労働基準法は最低額を定めたものであって、民事上は60%以上の支払いをしなければならない可能性もあることです。

ただ、実際には就労せずとも一定の手当てが出るわけですから、しっかりと話し合って60%の休業手当の支払いで納得を取り付けるべきです。少なくとも平均賃金の60%を支払えば労基法違反とはなりません。

 

3 弁護士の所感・コメント

コロナ禍においては休業手当の支払いをめぐり紛糾した場面が多数取り沙汰されました。

助成金の支給もされる以上、企業としては休業手当の支払いを免れられない場面が多かった印象です。

ただ、今回のご相談はコロナの名助成金とは無関係に休業手当を支払うべきかどうかという場面でした。

結論としては支払わざるを得ないということになりましたが、もっと早くにご相談をいただいていれば、休業手当の問題が発生しない形での店舗移転という持って行き方もできたのではなかろうかと思われるという意味で、やや残念な結果となりました。

また、他店舗の人員に不足があるならば、休業させるよりも一時的にせよ他店舗へ配転なども検討できたのですが、そもそも人員の不足がないばかりか、店舗限定契約を締結している点でもあまり有効な手が打てませんでした。

なお、仮に休業手当を支払わないで進めようとするのであれば大勢のパート・アルバイトに対して退職勧奨をせざるをえなくなります。そうすると退職勧奨に対応しなければならないコストのほか、新店舗開店時に新規採用のコストも発生します。

しかも退職勧奨に応じなかった従業員に対しては最終的に休業手当を支給せざるをえなくなります。そうすると、新店舗開店時に退職勧奨により退職した従業員が戻ってきて再雇用となった場合、休業手当をもらいながら営業再開を待っていた従業員もいたということを知ることで職場内の人間関係に亀裂が入りかねません。

従業員を遇するには一時的な支払いをどうするかという問題以外に、将来的な営業活動への影響も考えなければならないという一例でした。

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弁護士 阿部 貴之

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 代表弁護士の阿部貴之と申します。人事・労務管理担当者の方の負担を軽減し、よりよい職場環境の構築を目指し、一人あたりの生産性を高め、売上や利益の面で、貴社のかかえる問題解決に貢献します。民法・会社法・各種業法だけでなく、労働法、労働実務、人事労務管理問題に精通しておりますので、お気軽にご相談下さい。

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