会社のお金を横領した従業員への対処方法

5年以上に渡って2000万円以上の現金を横領していた 受付・会計窓口の従業員に合意退職してもらうと共に、 1か月半で約1000万円+分割払いなどの被害回復を実現できた事例を見る

当事務所では、中小企業における労働問題(問題社員対応、団体交渉・労働組合対策、未払残業代問題、解雇問題、メンタルヘルス・休職問題、ハラスメント対策等)について対応方法の提案や実施の支援をしています。

労働問題でお困りの経営者様やご担当者様は是非一度ご相談ください。

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1 神奈川県藤沢市内のE社からのご相談例

当社は藤沢市内で不動産業を営む会社です。創業以来、地元に密着して信頼と実績を積み重ね、徐々に店舗数も増やしてきました。

ところが先日、当社の経理担当の従業員Fが売上金を横領していることが発覚しました。その担当者は10年以上経理を担っており、会社側としても信頼していたのですが、どうやら長年横領を続けていたようです。被害額は3,000万円を超えており、看過できない状況です。

このような場合、Fに対してどういった処分をすれば良いのでしょうか?
懲戒解雇をした上で横領金を取り戻すといった対応で正しいのか、またFへの刑事告訴などの措置はどうすれば良いのか、アドバイスをいただけましたら幸いです。

2 会社のお金を横領されたら懲戒解雇が可能

会社のお金を横領されたら、会社はその従業員を懲戒解雇できるのでしょうか?

懲戒解雇とは、会社に対して重大な非違行為(問題行為、裏切り行為、信用毀損行為など)をした従業員を解雇することです。

就業規則に懲戒解雇の規定があり、本人に解雇されてもやむを得ない問題行為があれば、懲戒解雇は有効となります。

2-1 懲戒権の濫用について

懲戒解雇するときには「懲戒権の濫用」とならないよう注意しなければなりません。

懲戒権の濫用とは、会社が恣意的に懲戒解雇したり過剰な罰として解雇してしまったりすることです。

解雇は労働者に対して重大な影響を及ぼすので、たとえ問題行動があっても懲戒解雇が必ず有効とは限りません。問題行動と解雇という重大な処分が「釣り合っている」必要があります。

多少の非違行為があっても解雇するまでの事情でなければ、出勤停止や減給などの別の懲戒方法で対処すべきと判断され、解雇が無効と判断される可能性があります。

2-2 横領の場合には懲戒解雇が認められるケースが多数

一般的に会社のお金を横領された場合には、少額でも懲戒解雇が認められるケースが多数となっています(東京地裁平成13年10月26日など)。

横領は犯罪行為であり、基本的には解雇されてもやむを得ない非違行為といえるためです。

E社の場合、信頼して経理を任せていたFによって3,000万円もの大金を横領されているので、懲戒解雇は可能と考えられるでしょう。

3 懲戒解雇と解雇予告手当、退職金

懲戒解雇するときには、解雇予告(解雇予告手当)と退職金の取扱いに注意が必要です。

3-1 懲戒解雇でも解雇予告が必要

懲戒解雇をするときであっても、原則的に「解雇予告」の措置をとらねばなりません。

30日前に解雇予告できなければ、30日分以上の解雇予告手当を支給しなければならないのが原則です。

解雇予告の措置を不要とするためには、事前に労働基準監督署へ申請して「解雇予告の除外認定」を受けなければなりません。除外認定の申告から認定が下りるまでには1~3週間程度の日数がかかるので、解雇予告手当の支給を避けたければ早めに申請を出しましょう。

除外認定を受けていないのに解雇予告の措置を怠ると不当解雇となってしまうので、注意してください。

3-2 退職金の支給について

懲戒解雇する場合には、退職金を支給する必要がないと考える方もおられます。しかし必ずしも全額不支給にできるとは限りません。

そもそも退職金を不支給にするには、就業規則に「懲戒解雇の際には退職金を不支給にする」と規定しておく必要があります。また全額不支給にできるわけでもありません。

不支給にできるのは「従業員による非違行為がこれまでの企業への貢献を完全に無にしてしまうほど重大であった場合」のみです。

一般的には全額不支給にはならず、3割程度など一部の支払を求められるケースが多いと考えましょう。

4 損害賠償請求について

会社のお金を横領されたら、当然従業員に対して損害賠償請求が可能です。

ただ賠償金を請求するとしても、従業員が素直に横領の事実を認めるとは限りません。

また「損害額がいくらになるのか」も明らかにする必要があるでしょう。

賠償請求をする前に、横領に関する資料を集めておくべきです。本件のように長年横領行為が続いていた場合、過去に遡って膨大な資料集めや調査、検討が必要となります。

また従業員による証拠隠滅にも注意しなければなりません。事前に「損害賠償請求しようとしている」と知られると本人(本件では経理担当者であるF)が容易に資料を破棄してしまうおそれが高まります。

こういった場合、従業員に自宅待機命令を出して出勤させないようにしたうえで、調査を進めるのがよいでしょう。

5 刑事告訴について

会社のお金を従業員に横領されたら従業員に対して刑事告訴ができます。

ただし刑事告訴しても、お金が返ってくるわけではありません。懲役刑となれば、収入もなくなるので分割払いすら受けられなくなる可能性があります。メディアなどに報道されて会社の評判が傷つくリスクも考えなければなりません。

刑事告訴は必ずしもよい解決方法になるとは限らないので、注意しましょう。

まずは従業員と話し合い、可能な限り損害賠償をさせるようお勧めします。従業員が開き直って支払をしないなど、悪質な場合に刑事告訴を検討しましょう。

従業員が会社のお金を横領したときには懲戒解雇、損害賠償請求、刑事告訴などさまざまな観点から適切な対応を要求されます。法的なサポートが必須となりますので、お困りの方がおられましたらお早めに弁護士までご相談ください。

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弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

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