中小企業のための経営再建に向けた整理解雇について

1 リストラにおける最たる選択肢-整理解雇

リーマンショックや新型コロナウィルスの影響等、10数年に一度は不況が訪れます。不況に巻き込まれ会社の経営が落ち込み、経営を立て直さなければならない場面において考えられる方法がいわゆるリストラですが、整理解雇はこのリストラの最たる方法です。経営者が思うとおりに自由に整理解雇ができれば経営の再建が進みやすくなるという場面もあるでしょうが、会社の存続がかかっているとはいえ労働者側も生活がかかっているため、整理解雇は簡単にできるものではありません。

では整理解雇とはいったいどういうものなのか。どういう状況であれば整理解雇が認められやすいのか。どういう手順で整理解雇を進めるべきか。

中小企業向けに整理解雇を解説していきます。

 

2 退職と整理解雇との違い

整理解雇に先立ち、労働者が、退職勧奨に応じて退職したり、希望退職に応募して退職したりといった場面が考えられます。

このような退職は労働者の自由意思によって労働契約の解消が行われます。

しかし、整理解雇は解雇の一種であり、会社の一方的な意思表示で労働契約の解消が行われます。ある日突然雇用を失うことは労働者にとって生活のかかった死活問題であるため、日本の労働法制において解雇には様々な条件が要求され、簡単には解雇が認められないようになっております。

 

3 整理解雇とその他の解雇との違い

懲戒解雇や普通解雇などが行われる場面においては、労働者が横領をしたとか業務命令違反行為を繰り返したとかいった状況が考えられます。

これに対して整理解雇は従業員に具体的な落ち度当の問題があって行われるのではなく、会社の財政状況等の問題から行われます。

そのため、整理解雇が有効とされるためには懲戒解雇や普通解雇とは異なる条件が厳密に要求されます。

 

4 整理解雇を実施したが後にこれが無効となってしまった場合のリスク

このように、整理解雇は退職と異なり会社側の一方的な通告で行われるものであり、そのほかの解雇と異なって労働者側に明確な落ち度があって行われるものではないため、様々な条件が求められます。

そうであるにもかかわらず、要求される条件を満たしているかどうか十分に検討せず安易に整理解雇を行ってしまい、後日労働者側に整理解雇が無効であると争われ裁判となったとしたら、十中八九会社側が負けるでしょう。

会社側が負けた場合、会社側に生じる損害は極めて甚大なものとなります。

第1に、会社が整理解雇を行ってから裁判の結果が確定するまでの賃金を一括して整理解雇が無効となった労働者たちに支払わなければなりません。整理解雇を行った人数が多く、整理解雇が無効とされた労働者の人数が多ければ多いほど損害は膨らんでいきます。

第2に、整理解雇した労働者が会社に戻ってきてしまいます。長らく業務から離れていた上に裁判で散々に争って信頼関係がずたずたに破壊された人員を組織の一員として再度迎え入れなければならないのです。

例えば以下のような事例があります。

-ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパン事件-

(東京地裁平成23年9月21日判決)

【概要】

整理解雇した労働者が採用時に期待された能力を欠いていたことに加え、会社の経営が危機的な状況にあったとして会社が行った整理解雇の有効性が争われた裁判

【結果】

整理解雇は無効となった上、会社は労働者に対し、裁判期間(約2年間)中の給与(月額約90万円)と賞与(年間約340万円)の全額支払いを命じられました。

約3000万円の損失

 

-学校法人専修大学(専修大学北海道短期大学)事件-

【概要】

法人に勤務していた教員ら8名が整理解雇の無効と整理解雇日以降の賃金・賞与の支払いを求めた裁判

【結果】

教員ら8名の整理解雇は無効となった上、法人は労働者に対し、裁判期間(約1年8か月)中の給与(月額約44万円~60万円)と賞与(年額約90万円~120万円)の支払いを命じられました。

総額1億円超の損失

このように、安易に整理解雇を行ってこれが無効となった場合、経営再建のために行ったつもりの整理解雇が、より一層に会社を経営危機に陥れる原因となります。中小企業の場合、これが原因で経営が立ち直れなくなり倒産してしまうことも十分考えられます。

 

5 整理解雇に必要とされる条件

(1)整理解雇において要求される4つの要素

労働判例・実務において、整理解雇にあたっては①経営上の必要性(人員削減の必要性)、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性を考慮すべきとされます。

ではこれら4つすべて揃うことが条件かというと、近時の労働裁判例・実務の傾向からすると、要件とまではされていないものの、重要な考慮要素とされており、これら4つの要素がどの程度のものかによって整理解雇の有効性が判断されております。

例えば、会社が倒産しかねない状況にある場合は解雇回避努力を十分に行う余力がないことが考えられるため、①が高度に存在する場合は②はそこまで厳しく要求されないと考えられます。反対に、経営戦略の一環として不採算部門の整理の手法として整理解雇が行われる場合、①があるのか否かが怪しいとも考えられるため、②は極めて入念かつ相当手厚い内容でなければ整理解雇が有効とは到底なり得ないと考えられます。

(2)経営上の必要性(人員削減の必要性)

人員削減の必要がある状況としても様々な場面が考えられます。

実務上は、①人員削減措置を講じなければ倒産してしまう状況、②債務超過などの高度の経営上の困難から人員削減措置が必要とされる状況、③企業の合理的な経営上やむを得ない必要性がある状況、④単に余剰人員が存在する状況などに分類されております。

裁判例の中には①の程度の必要性を要求するものもありますが、多くは②の程度を前提としているように見られます。では③の程度では整理解雇が認められないかというと、先ほど述べたとおり、その他の要素の満たし方によっては認められる余地があろうかと思われます。ただし、④の程度となると、その他の要素、特に解雇回避努力の点が整理解雇を認めるに十分だったと言える場面は極めて限られると考えられます。

(3)解雇回避努力

解雇回避努力として認められる措置としては以下のような措置が挙げられます。

・配転、出向、転籍
・希望退職者の募集
・諸経費(広告費、交通費、交際費等)削減
・残業規制
・従業員の昇給停止、所与の減額、不支給、賃金減額
・労働時間の短縮や一時帰休
・採用の停止、縮小
・役員報酬削減、役員の退任

これらの措置をどの程度とればよいのかについては、他のあらゆる経営常温努力ないし最大限の経営上の努力を尽くす必要があるという考え方(上記すべてを徹底的に行うなど)や、相当な経営上の努力ないし合理的な経営上の努力を尽くせば足りるとする考え方などがありますが、明確な基準はありません。

むしろ、企業規模、人員削減の必要性がどの程度あったか、従業員の就労状況等によって、解雇回避努力を尽くすべき程度も変わってくると考えられます。

例えば、中小企業の場合、支店や営業所が存在しなかったり、従業員が従事する業務が単一で部門が分かれていなかったりで、配転や出向を行うことが不可能に近い場合も考えられるため、希望退職者の募集を募るだけでも十分といえる場合も考えられます。逆に、近時の労働判例・実務上、希望退職者の募集は整理解雇を行う会社として通常講ずべき措置と考えられているため、よほどの場合でない限り、希望退職者の募集を行わなかった整理解雇は無効とされてしまうものと考えられます。なお、希望退職の募集は、通常、退職金の上積み等の優遇措置を講じることがセットで行われます。

(4)人選の合理性

人選の合理性は、①人選基準が客観的・合理的なものであり、②その適用が公正なものである、ということがどの程度認められるかがポイントになります。

人選の基準に設定するものとしては以下のようなものが挙げられます。

・勤務態度(欠勤日数、遅刻回数、規律違反等)
・労務の量的貢献度(勤続年数、休職日数等)
・労務の質的貢献度(過去の実績、業務に有益な資格の有無等)
・雇用形態(正社員、非正社員等)
・年齢

これら踏まえて条件設定を行い、設定した条件を適正にあてはめたといえなければならず、恣意的に運用したと認められた場合には整理解雇が無効とされかねません。

例えば、経営陣とそりの合わない労働者を選び出すために条件設定を行った場合は形式的に基準を敵湯押しても適正な適用とは認められないものと考えられます。

(5)手続の相当性

手続の相当性とは、一言でいうときちんと丁寧に説明を行ったかということを意味します。

具体的には、整理解雇をしようとする労働者に対して個別的説明や協議、解雇理由の通知のほか、労働者の加入している労働組合が判明しているのであれば労働組合に対する集団的な説明や協議の場を設け、回数を重ねつつ十分に説明・協議を行うことが推奨されます。

また、説明や協議も形式的に行うのでなく、当事者の納得を得るために時には譲歩するなど誠実に行う必要があります。

(6)これら4つの要素のほかに整理解雇を有効に導く措置

整理解雇する労働者の不利益を緩和する措置を講じておくことで整理解雇の有効性が高まる場合があります。

例えば、中小企業の場合、整理解雇された労働者に本来は退職金が支給されない場合もあろうかと思います。このような労働者に対して慰労金等の名目で金銭を支給することで、急な解雇に対する不利益を緩和させるのです。

また例えば、整理解雇された労働者について、再就職先を紹介したり、一定期間中は再就職までのフォローをするコンサルティングを会社の費用負担で受けられるようにしたりなど、次の就労に就くための支援を具体的に行うことなども不利益緩和措置の一環として考えられます。

 

6 その他の注意点

整理解雇も解雇の一種であるため、解雇を行う場合に法律が定める形式的な要件を満たす必要があります。具体的には以下のとおりです。

まず、法律が解雇を禁止制限している場面では整理解雇はできません。

次に、原則として解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。

そして、就業規則や労働協約、労働契約などの解雇事由に該当することが必要です。

 

7 弊所における整理解雇実施への支援・取り組み

弊所では、中小企業の経営陣の方々が整理解雇を実施するにあたり、次のようなリーガルサービスを提供できます。

(1)人員削減方法のご提案や実現可能性に関するアドバイス

人員削減の必要性がどの程度認められる状況か、各種資料を拝見して事情を伺い、整理解雇の実現可能性についてアドバイスいたします。また、整理解雇以外の人員削減方法を検討・ご提案し、その実現可能性についてもアドバイスいたします。

(2)整理解雇に向けた計画の策定・管理・実行の支援

整理解雇の実現可能性が見込める場合、整理解雇実行に向けた計画の策定・管理・実行の支援を行います。

具体的には次のような支援です。

  • 人選基準が客観的・合理的なものになっているか、その適用が公正なものとなっているかを検討し、基準や適用方法の修正が必要であれば具体的にアドバイスいたします。
  • 解雇回避努力として認められる各種措置としてどのような措置を実行すべきか会社の置かれた状況を踏まえてご提案し、その実行を支援いたします。
  • 整理解雇に向けた手続が公正に行われるよう、退職勧奨への立ち合いや労働者・労働組合への説明ないし説明会への立ち合い、説明を補助するなどの支援を行います。

(3)不当解雇を主張する従業員への対応

整理解雇実行後に解雇の有効性を争ってきた従業員との協議、交渉等を行います。

(4)訴訟等法的手続対応

万が一紛争が労働審判や訴訟へと発展した場合はその法的手続に対応し解決を図ります。

 

8 整理解雇をご検討中の経営者、人事担当者の方々へ

整理解雇は解雇の中でも難易度の高い手続です。法的に正しい方法・手順で行ったとしても必ず成功すると言いきれません。ここで取り返しのつかないレベルの失敗をしてしまうと、会社再建のために整理解雇を行ったにもかかわらず、会社の再建が極めて難しいものとなってしまいかねません。そのため、整理解雇に踏み込むにあたっては、少なくとも労務問題に注力している弁護士など労働問題の専門家に相談することをお勧め致します。

 

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弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応、)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

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