時間単位の有給休暇

1 有給休暇に関するトラブル

(1)ケース

【ケース①】
Xは「持病で通院したい」といって有給休暇の時季を指定した。しかし、上司AはXが早朝に新幹線に乗るところを見かけた。同僚Bは、Xから「有給休暇を取った日は旅行してきた」と聞いていた。Y社は、Xに対して何らかの処分を行うことができるか?

【ケース②】
Xは、Y社を退職することになった。Xは「退職までの残りの出勤については、未消化有給分を取得する」として、退職したいと言った日以降出勤してこない。Y社は、このような有給休暇を認めなければならないのか。

【ケース③】
Xは、20XX年の有給休暇を消化しきらなかった。Xは、翌年に消化しきれなかった有給分を使用したい旨申出てきた。Y社は、このような有給休暇を認めなければならないのか。

(2)有給休暇のポイント

有休休暇の実務上のポイントは3つあります。

1つ目は、有給休暇は原則として労働者の自由に使用することができるというところです。したがって、労働者は年休の取得にあたり、その目的を使用者に告げる必要はなく、仮にあらかじめ目的を告げたとしても、その目的に拘束されません。

ケース①の場合、Xがたとえ通院するつもりはなく、はじめから旅行するつもりだったとしても、有休休暇は自由に使用することができるという性質上、何らかの懲戒処分を行うことは難しいということになります。

2つ目は、原則として労働者が指定した時季に有給休暇を認めなければならず「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って有給休暇の時季を変更できるということです。
使用者ができるのは、あくまで変更することなので、他の時季に年休を与えることができないケース②のような場合には、Xが指定したとおり、退職までの出勤については有給休暇の取得を認めなければいけないことになります。

3つ目は、年休権は翌年に繰り越すことができるという点です。ただし、年休権は2年の時効に服することになります。

2 時間単位の有給休暇

(1)ケース

Y社では、社員が働きやすい環境をつくるための制度づくりを検討していた。そうしたところ、ある社員から「土曜は病院や公的機関が混みやすい。ただ、通院や公的手続は1日かけてやることでもないので、平日に中抜けできるようなかたちで行きたい」との意見が出た。

(2)時間単位の有給休暇の導入

有給休暇は1日単位で取得するのが原則ですが、労使協定を締結すれば、時間単位での有給休暇も付与することができます。

労使協定には以下の内容を定める必要があります。

・時間単位の年休を与えうる労働者の範囲
・時間単位の年休として与えうる年休の日数(※ 5日が上限となります)
・時間単位年休1日の時間数
・1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

たとえば、次のような労使協定が考えられます。

・労働者の範囲:すべての従業員を対象とする
・年休の日数:1年について5日の範囲内で時間単位の年次有給休暇を付与する
・1日の時間数:6時間
・時間単位年休は1時間単位で付与する

こうして、時間単位の有給休暇を導入すれば、休日の混雑を避けるために平日に通院したり、公的機関で手続を済ませたりすることができます。
社員の福利厚生を図ることができるので、時間単位の有給休暇を導入している企業があります。

3 まとめ

有給休暇は日常的な労務問題のひとつです。上記にあげた問題以外にも、「退職代行業者から『退職までの残りの出勤については、未消化有給分を取得する』と言われたが、どうすればいいか」「休まれてしまっては仕事が回らないから、『事業の正常な運営を妨げる場合』にあたるとして、別の時季に変更してもらってもかまわないか?」といった問題が生じます。
このような疑問点が生じたときに弁護士に相談できる体制を作っておけば、コンプライアンスを守ったかたちで対応することが可能です。

また、有給休暇は社員のワークライフバランスを向上させるためにも重要な制度です。時間単位の有給休暇を導入はもちろん、他にも「計画年休を導入したい」等のご相談があるときには、ぜひ当事務所にご相談ください。

 

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弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

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