フレックスタイム制で可能になる働き方とは?

1.時差出勤について

ケース


J菓子会社のX社長 は、新型コロナウィルス対策に悩んでいた。
J菓子会社は先代の店をひきついだX社長が新スイーツをヒットさせたことによって〇〇県でシェアを伸ばし、〇〇県下では7店舗構えるまでに至った。J菓子会社は新型コロナウィルス不況のあおりを受けて経営が苦しくなっていたが、なんとか持ちこたえていた。
しかし、社員も自粛疲れで疲弊している様子が見て取れた。X社長は、「なんとかして社員のモチベーションを保たないといけない」と考えていた。そんな折、人事部長Yから次のような提案をうけた。


【Y人事部長】:「X社長、新型コロナウィルス感染予防のために社員のなかから時差出勤したいという希望が高まっていますし、時差出勤のためにフレックスタイム制を導入してはいかがですか

【X社長】:「確かに混雑したバスや電車は3密状態だから感染リスクは高いことだし、社員を守ることができるな。フレックスタイム制でも導入しようか」

提案はしたもののフレックスタイム制について正確な知識を持っていなかったので、人事部長Yは弁護士にオンラインで相談した。

【Y人事部長】:「フレックスタイム制については、何となくイメージがあるのですが、① 具体的にはどのような働き方が可能になるのでしょうか?②ウチはどのようなフレックスタイム制を導入すればいいでしょうか?③導入するためにはどうすればいいでしょうか?」

【Z弁護士】:「まず、①フレックスタイム制について具体例を用いた説明をさせていただきますね。次に、②少しヒアリングをしてから御社の業務にあったフレックスタイム制を提案いたします。③最後に手続きについてご説明します」

(1)時差出勤

フレックスタイム制を導入すると、あらかじめ働く時間の総量を決めたうえで、日々の出退勤時刻や働く長さを労働者が自由に決定できます。フレックスタイム制が向いているのは

  • 時差出勤を可能にしたい
  • 繁忙期と閑散期がある
  • ワークライフバランスを充実させて求心力のある会社にしたい

といった場合です。

労働者が働く長さを自由に決定できるとは具体的にどういうことかというと…
たとえば、

【社員のニーズ】
新型コロナウィルス感染予防のために時差出勤したいし、子供の送迎がある時には早めに帰りたい

【会社側のニーズ】
10時~15時は電話や来客が多いので、なるべく多くの社員にいてほしいという場合、下記図のような調整が可能です。


上記のフレックスタイム制を導入した場合には、

  • 10時~15時は必ず労働しなければならないが…
  • 月曜日は、電車の混雑を避けて10時に出社して、子の送迎のために15時に退社する
  • 火曜日は、月曜日は短めに働いたので、7時に出社して18時に退社する

というふうにして、社員のニーズと会社側のニーズを調整することができます。
このように時差出勤を導入したい場合にはもちろんですが、より重要なのは繁忙期と閑散期がある会社の場合です。

2.繁忙期と閑散期がある会社の場合のフレックスタイム制

ケース


J菓子店は自粛疲れで疲弊している社員のためにフレックスタイム制を導入することにしたが、どういう内容のフレックスタイム制にして、どのような手続きをとればいいのかわからなった。そこで、Y人事部長はZ弁護士に相談した。


【Z弁護士】:「J菓子店は時期的に繁忙期と閑散期がありますか?」

【Y人事部長】:「やはり12月のクリスマス時期、2月のバレンタインの時期は忙しいです」

【Z弁護士】:「なるほど。3ヶ月単位の清算期間を設けるフレックスタイム制を導入するといいでしょう」

【Y人事部長】:「清算期間?どういうことでしょうか?」

(1)清算期間とは?

フレックスタイム制を導入した場合、時間外労働に関する取扱いが通常とは異なることになります。1日8時間・週40時間以上 労働したとしても、ただちに時間外労働とはなりませんし、逆に、1日時短勤務したとしてもただちに欠勤となるわけではありません。
では、どのような場合に時間外労働となるのかというと、それは、清算期間内の法定労働時間の総枠を越えた場合です。たとえば、3ヶ月を清算期間とした場合には、

  • 3ヶ月全体で週平均40時間に収まること
  • 1ヶ月ごとの平均した労働時間が週50時間 をこえないこと

という2つの基準を満たす必要があります。

(2)3か月の清算期間とするメリットは?

清算期間は、従来、1ヶ月以内とされていましたが、改正によって3ヶ月を精算の期間とできるように改正しました。この改正によってJ社は次のようなことが可能になります。

  • 12月はクリスマスで忙しいので、所定労働時間のラインを越える。
  • 1月はそれほど繁忙期ではないから、所定労働時間のラインを越えない。
  • 2月はバレンタインデーがあることから、所定労働時間のラインを越える。

そこで、12月と2月の超過分を1月の不足分でいわば“ならす”ことができる。こうすれば、割増賃金を支払うこと必要がないことになります。

3.部門ごとに忙しさの性質が異なる場合のフレックスタイム制

ケース

【Z弁護士】:「閑散期でもこの時間帯に人手が欲しい部門はありますか?」

【Y人事部長】:「事務スタッフは電話対応がありますので、会社にいてほしいです」

【Z弁護士】:「なるほど。それでは、営業やパティシエを対象としてフレックスタイム制を導入した方がいいですね。ただし、それでは事務スタッフに不平等感が生じかねないので、事務スタッフは極力定時で帰してあげるように配慮しなければいけません」

【Y人事部長】:「なるほど…そうですよね」

フレックスタイム制を導入する場合、対象となる労働者の範囲を設定することができ、合理的な労務管理をすることができます。もっとも、それによって職場内に不公平感が生じることもあります。そのため、不平等が生じないように全体の調和が必要になります。

4.どうやって導入すればいいのか?

フレックスタイム制を導入するためには、最大で4つのステップが必要になります。

  • 就業規則などへの規定
  • 就業規則を所轄労働基準監督署長に届出
  • 労使協定で所定の事項を定めること
  • 労使協定を所轄労働基準監督署長に届出(清算期間が1ヶ月を越える場合)

です。 労使協定締結の際に、対象となる労働者の範囲、清算期間等を設定することになります。ここは重要なところですので、労使で十分に話し合う必要があります。そのときに労働者に納得のいく説明ができる必要があります。

5.まとめ

コロナ禍で柔軟な働き方を認める企業が増えています。その中で旧態依然の働き方をつづけていれば会社の魅力は落ちてしまうことでしょう。いい人材にいてもらう、いい人材を勝ち取るためにはやはりフレックスタイム制の導入は不可欠です。

もっとも、フレックスタイム制は複雑な制度です。使用者の理解不足があれば思わぬところで割増賃金を支払う必要が出てくる場合がありますし、労働者との調整がうまく済んでいなければ不平・不満が溜まりかねません。
こうしたトラブルが起こらないよう、転ばぬ先の杖のためにぜひ弁護士にご相談ください。

 

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弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

弊所では紛争化した労働問題の解決以外にも、紛争化しそうな労務問題への対応(問題社員への懲戒処分や退職勧奨、労働組合からの団体交渉申し入れ、ハラスメント問題への対応)、紛争を未然に防ぐための労務管理への指導・助言(就業規則や各種内規(給与規定、在宅規定、SNS利用規定等)の改定等)などへの対応も積極的に行っておりますのでお気軽にご相談ください。

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