令和における高年齢者の雇用に関する就業規則整備のご相談

1 いただいたご相談内容

65歳までの就業確保義務について

当社の就業規則においては定年について次のとおり定めております。

「従業員の定年は満60歳とし、満60歳に達した日の属する月の末日をもって退職とする。但し、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者については、満65歳まで継続雇用する。」

この内容は法律上問題ないでしょうか?

70歳までの就業についてのあり方

法改正により従業員が70歳になるまでの就業確保についての努力義務が使用者に課せられましたが、定年を70歳まで延長するパターンと、定年は60歳のままで再雇用の上限を70歳にするパターンなど色々と考えられます。

この両パターンについてのメリット・デメリットは何でしょうか?

また、世間的にはどちらが主流なのでしょうか。

 

2 弁護士からの回答

65歳までの就業確保義務のご質問に対して

就業規則の内容は法律上問題ありません。

ただ、2つ注意点があります。

まず1つ目ですが、貴社では再雇用社員の契約更新にあたり、当該従業員が懲戒処分を受けた場合は契約が更新されない場合があるという定めになっております。

しかし、実際に契約更新をせず雇い止めとする場合は解雇規制が働きます。

つまり、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」という要件が求められますので、実際の運用では単に懲戒処分がなされたというだけで雇い止めをすると、雇い止めが無効となってしまう可能性もあります。そのため、規定をそのまま形式的に適用せず、雇い止めとするだけの十分な理由があるかどうかをじっくり吟味する必要があります。

次に2つ目ですが、貴社のような就業規則(定年)の規定はよく見られる汎用的な記載であり、厚生労働省の示す条項例とほぼ同内容です。ただ、「満65歳まで継続雇用する」という表現が定年延長にも読めてしまいそうですし、65歳までの雇用を必ず行う(雇い止めなどはしない)という条項にも見えます。そのため、「雇用契約を更新することができる。」という条項とした方が良いと思われます。

 

70歳までの就業についてのあり方のご質問に対して

70歳まで定年を延長するメリット・デメリットは以下のとおりです。

【メリット】

・人員不足という中で従業員の確保を考えた時、定年延長することで安心感を与えて従業員の確保に繋げられる

・60歳以降の再雇用は勇気1年が多いところ65歳の定年延長とすることで従業員のモチベーションアップに繋げられる

・現在、公務員も定年延長が検討されている時代なので時代の趨勢にかなうと言える

・有期1年ごとの雇用契約の締結が必要となり雇用の管理が困難・煩雑なところ、定年延長であればそういった煩雑さから解放される

【デメリット】

・60歳前との間で職務に変化がない場合は給与の減額に理屈をつけ難く人件費が増大する恐れがある。

→ただしこの点は延長後の職務内容と給与の減額に関する制度設計の問題になります。制度を作りこむことで解消できる問題だと思います。

・役職をそのまま継続する制度設計になっている場合組織の高齢化が進み上のポストが詰まることで若手のモチベーションが下がる。

→この点も制度設計の問題です。

 

定年を70歳まで延長するパターンと、定年は60歳のままで再雇用の上限を70歳にするパターンとで世間的にどちらが主流かとのご質問についてですが、結論としては定年を60歳のままとする企業が主流です。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の2019 年調査において、94.7%の企業が「定年あり」と回答した(5,578 社)ところ、定年制度を設けている企業の 75.6%は「60 歳」、18.5%は「65 歳」、1.8%は「66 歳以上」に定年年齢を設定している、とのことでした。つまり、定年は60歳据え置きとしている企業が大半です。

 

3 弁護士の所感・コメント

高年齢者雇用安定法は度々改正がされてきております。

1994年の改正で60歳定年制度が強行法規とされました。つまり、定年を60歳未満とする古い就業規則のままですとこの規定は無効になり、定年制がない会社となってしまいます。

その後、2004年の改正において65歳までの雇用確保措置が義務化され、2012年改正においては定年を迎えた従業員のうち継続雇用を希望する従業員を原則として再雇用しなければならないとされました。そして2020年の改正(2021年4月施行)においては70歳までの就業確保措置が努力義務として定められ、再就職援助措置及び多数離職届等の対象が追加されました。

高年齢者の再雇用にあたっては、再雇用時の処遇として、どういった職務を任せられ、どの程度の賃金を支払えばよいのか、元々有期契約社員だった従業員の雇い止めと定年制との関係はどう考えたらいいのか(60歳児に雇い止めしてはいけないのか等)、など様々な論点があります。

また、人手不足と言われる状況が大きく改善する見込みもない中での法改正を踏まえると、どのように60歳以降の雇用の制度設計をしていくことが人材を集めやすくなるのか、制度設計も考えていかなければなりません。

高齢化していく従業員をどう活用していこうか、どのように制度を作っていくべきかについてご検討中の企業様に置かれましてはまずはお気軽にご相談ください。

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弁護士 阿部 貴之

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 代表弁護士の阿部貴之と申します。人事・労務管理担当者の方の負担を軽減し、よりよい職場環境の構築を目指し、一人あたりの生産性を高め、売上や利益の面で、貴社のかかえる問題解決に貢献します。民法・会社法・各種業法だけでなく、労働法、労働実務、人事労務管理問題に精通しておりますので、お気軽にご相談下さい。

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