労働基準監督署による調査や是正勧告への対処方法

長時間労働や未払残業代などの問題がある場合、従業員からの申告を受けて労働基準監督署から急遽調査を受けることになる場合があります。

労基署対応が初めてという経営者は戸惑われるでしょうし、過去に経験のある経営者の方としてもどのような対応をするべきだったかは気になるところかと思われます。

そこで、労基署から文書や電話で個別に呼出しがなされ、必要書類を持って労基署へ来るように要請された、または突然労基署の監督官が自社へ来社したという時点から順を追って一般的な対処方法を見ていきたいと思います。

1 スケジュールが合わない場合に調査を拒否できるのか

労働基準法は次のとおり定めております。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

一~三号 略

四 第百一条(第百条第三項において準用する場合を含む)の規定による労働基準監督官又は女性主管局長若しくはその指定する所属官吏の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者

つまり、監督官の調査を拒否することは刑事罰の対象になります

しかし、突然の要請であり、スケジュールが合わないことも多々あろうかと思います。その場合、理由を説明して日時を変えてほしいと要望すれば、監督官が無理やりに調査を行おうとはしないのが通常です。または、その時点で対応可能な責任者がその責任者の権限の範囲内で事業場内の検分に応じる等の対応にとどめ、そのほかの調査は後日として日程調整を行うという対応もあろうかと思います。

いずれにせよ、調査を拒むのではなく調査を受ける方向で調整をしていくというのが正しい対処方法でしょう。

2 監督官が事業場の調査を行う場合の対応方法

事業者が労働基準法や労働安全衛生法などを順守しているか確認する調査(臨検監督)を、監督官が事業場に立ち入って行う場合があります。

臨検監督は事業場の規模や業種、事業主の態度、記録の妥当性などによって調査が行われる順序や方法が様々です。工場など現場に法違反を疑う場合は工場内等の現場から調査を行うこともあり、タイムカードなど書類に法違反の証拠が疑われる場合は事務所内での書類精査から行われることもあります。会社側として必要なことは、説明を求められた場合にその説明を適正に行うことができ、法違反等の指摘を受ける場合にその説明内容を理解してこれを是正する権限と能力を持つ責任者が監督官に同席・同行し、その対応にあたれるよう準備しておくことです。

なお、一般に監督官によって調査される対象となる書類は以下のとおりです。

・雇用契約書
・労働条件通知書
・労働者名簿
・賃金計算の記録書類(賃金台帳や賃金明細書等)
・労働時間の記録書類(出勤簿、タイムカード、シフト表等)
・時間外・休日労働に関する協定届など労働時間関係の労使協定届
・就業規則

3 監督官から是正勧告書というものを渡されたがこれは何なのか

監督官は、帳簿や書類の提出を求めることができ、事業主や社員に対して尋問を行うことができます。さらに刑事訴訟法の特別司法職員としての職務権限も有しており、労基法違反を繰り返して行政指導に従わない会社や、重大な法令違反を犯している会社を発見した場合には、事業主を逮捕したり送検したりすることもできます。

是正勧告とは、調査の結果監督官が法違反を指摘し、是正勧告書を交付して会社に勧告指示を出すものです。

これ自体は行政処分ではなく行政指導にすぎないため、事業主はこれに従う法的義務を負うものではありません。

しかし、法違反の状態にあるわけですから、是正勧告に従わないまま放置した場合は法違反による送検、刑事処分という結果を招く恐れがあります。

こういった背景から、是正勧告を受けた会社は、勧告内容に定められた是正期限内にどのように是正したのかを記載した是正報告書を提出しなければなりません。

以下の事項はよく是正勧告がされる事項です。

・未払残業代
・就業規則の未作成
・雇用時における労働条件の書面による明示違反
・法定労働時間、変形労働時間制に関する違反、36協定未作成など
・賃金台帳への労働時間の未記入

そのため、日々の労務管理においては上記項目に関連することに重点を置いて対策すべきと言えます。

労基署は特に未払残業代の是正に力を入れているようです。書類等に反映されていない事情もあろうかと思いますので、そのような事情があればしっかりと主張しましょう。
例えば、パソコンのログイン時間を参考に労働時間が計算されている場合、ログイン時間以降がすべて業務時間ではない(トイレや小休憩での離席など)場合もあろうかと思われますが、そのような事情は主張しなければ考慮されません。

割増賃金の不払いなど是正勧告の内容によっては、会社に多大なコストが突然発生する場合があり、専門的な見地から早急な対処が必要となります。少しでも支払うべき金額を減額するべく、労働問題に詳しい弁護士を交えて監督官と話し合うことも選択肢の一つです。

なお、是正勧告書のほか、使用停止命令書や指導票というものが交付される場合もあります。指導票とは、法違反にはあたらないもののガイドラインに抵触している場合などで改善の必要がある事項が認められる場合、法違反とは断定しがたいが改善すべきことやその改善方法が記載された書類です。

4 是正勧告を受けてしまった場合の対処方法

(1)是正期日に関する対処方法

先ほども述べたように、是正勧告自体は行政指導に過ぎませんが、放置すれば送検されて刑事処分を受ける恐れがありますので是正勧告には従うべきでしょう。

そのため、是正勧告の期限内に勧告内容に従った是正とその報告書の作成が可能なのかということをまず検討することとなります。

是正期日には目安がありますが、絶対目安のとおりにされてしまうわけではなく、監督官に裁量の余地があります。そのため、是正勧告書を受けるとき、期限に間に合わない恐れのある事情がある場合は、率直にその事情を説明し、その事情に配慮した是正期日を定めてもらうことが重要です。

(2)是正勧告を受け取った後の対処方法

改善を図るには全社的な洗い出しが必要です。そのため、まずは事業主や責任者だけでなく、全従業員に対しても、是正を求められた事項を情報共有し、真の問題点とその改善方法を協議・検討すべきと考えます。労働条件の向上が目的となれば従業員の士気も上がるでしょうし、問題が安全・衛生に関することであった場合は従業員の意識改善にもつながります。

そして是正がなされた後は是正報告書の作成が必要となり、報告書の内容を裏付ける資料も添付する必要があります。裏付け資料としては、例えば賃金等に関する是正であれば個人別の支払い明細や賃金台帳等です。

是正報告書の提出がどうしても是正期日に間に合わないという場合は是正期日の延期を申し入れましょう。期日延期の対応を取らず是正期日を徒過しても是正報告書を提出しない状態を招いてしまうことだけは避けなければなりません。是正の進行状況と是正期日に間に合わない理由を説明し、合理的な内容であれば期日の延期をしてもらえる場合もあります。

(3)しっかりと対処するには専門家の関与が推奨されます

是正勧告を受けたということは、会社の社会的信用を低下させかねない問題であり、これを受けないよう常日頃から適正に労務管理を行うことが望ましいです。

しかし、是正勧告を受けてしまったという事実は消せません。せめて経営者様と従業員の方々が一丸となり、これから会社をどうしていくべきかを考えてみるきっかけにしていただくことが良いと思います。先ほども述べたとおり、抜本的な是正には、経営者や責任者だけでなく従業員一人一人が自分のこととして取り組む姿勢が必要です。

そこで、会社の人事労務管理を見直す良い機会と捉えていただき、誤った対処をしてしまい法違反の解消が十分にできないという事態を回避するために、弁護士など労働問題の専門家のサポートを受けられることが推奨されます。社内の皆様だけでなく弁護士など労働問題の専門家のサポートを受けてしっかりと進めようとしている姿勢を示すことは、会社全体の士気の向上にもつながると思います。

是正勧告の内容によっては、運用を変えることによってコストをあまりかけずに改善することが可能な場合もあります。是正勧告を受けたがどのようにすればよいか分からないという場合は一度ご相談ください。

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弁護士 阿部 貴之

弁護士法人シーライト藤沢法律事務所 代表弁護士の阿部貴之と申します。人事・労務管理担当者の方の負担を軽減し、よりよい職場環境の構築を目指し、一人あたりの生産性を高め、売上や利益の面で、貴社のかかえる問題解決に貢献します。民法・会社法・各種業法だけでなく、労働法、労働実務、人事労務管理問題に精通しておりますので、お気軽にご相談下さい。

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