同一労働同一賃金とは

1 ケース

X社は、中規模の運送会社である。X社では「正社員を優遇すべき」と考えて、非正社員とは異なる取り扱いをしている。
その一環として、X社は正社員には通勤手当を支払っているのに対して、非正社員には通勤手当を支払っていなかった。しかし、X社社長のYは「同一労働・同一賃金」のニュースを見て、このような取り扱いは法律に違反するのではないか?と心配になった。そこで、顧問の法律事務所に相談した。

2 不合理な待遇及び差別的取り扱いの禁止

同一労働・同一賃金とは、正社員と比較して、非正規社員(=有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者)に対する不合理な待遇及び、差別的取り扱いを是正する制度を指します。

3 通勤手当における不合理な待遇の禁止

このケースの場合、同一労働同一賃金に違反する可能性が高いです。
まず、正社員には通勤手当を支払っているのに対して、非正社員には通勤手当を支払っていないので、このような異なる待遇に合理性が認められなければいけません。

次に、合理性が認められるかという点ですが「正社員を優遇すべき」との観念的な理由づけだけでは合理性は認められません。
仮にこのような観念的な理由で合理性が認められてしまうと、同一労働同一賃金というルールが骨抜きにされてしまうからです。そのため、通勤手当の性質を考えて、正社員と非正社員とで異なる取り扱いをする合理性が決定されることになります。

通勤手当は、会社が通勤費用を全部または一部を負担するものです。
通勤費用は、距離・回数・手段に応じて決定されます。そうなると、正社員であっても、自宅から徒歩でいけるような距離に住んでいて通勤費用がかからない人もいますし、自宅から1時間かけて電車で通勤する非正社員もいます。
したがって、正社員か非正社員の区別ではなく、通勤にかかる距離・回数・手段に応じて通勤手当を決定すべきことになります。
よって、非正社員に通勤手当を支給しないことには合理性がないことになります。

4 通勤手当に相違を設けることに合理性が認められる場合

逆に、このケースとは異なって、①所定労働日が多い正社員+②所定労働日が多い短時間・有期雇用労働者には月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、③所定労働日が少ない短時間労働者には日額の交通費に相当する額を支給しているという場合、①所定労働日が多い正社員と③所定労働日が少ない短時間労働者の間に異なる取り扱いがあることになります。
しかし、このような異なる取り扱いをしているのは、③所定労働日が少ない短時間労働者は、通勤日数が少なく、通勤費用がそれほどかからないことが理由です。

このような理由があれば、異なる取り扱いに合理性があることになります。

5 まとめ

正社員と非正社員の間で異なる取り扱いがあったとしても、直ちにそれが法律違反になることはありません。しかし「何となく」「正社員を優遇すべきだから」「前からそうだったから」との理由では、合理性が認められず、法律違反になる可能性が極めて高いです。
日々流れている同一労働・同一賃金に関するニュースについては、対岸の火事と考えることなく、しっかりと対処することが必要です。

 

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弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

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